スタッフが育たないと悩んでいるリーダーほど、実は「育てようとしすぎている」ことがあります。
人は誰かに育てられるのではなく、環境の中で勝手に育っていくもの。介護現場のリーダーに求められるのは、教えることではなく、育つ場をつくることかもしれません。
「なんで自分で考えられないんだろう」と思ったことはありませんか
入職して半年も過ぎたスタッフに、簡単な申し送りを任せてみた。でも翌朝、確認すると抜けだらけ。「なぜちゃんと考えてくれないんだろう」と、思わずため息をついてしまった。そんな経験、ありませんか?
多くのリーダーがこのとき「もっと丁寧に教えなければ」と考えます。マニュアルを整備して、OJTを増やして、自分が手本を見せて。でも何度教えても同じことが繰り返される。
ここに、大きな落とし穴があります。
「育てる」という言葉には、無意識のうちに「育ててやる側」と「育てられる側」という上下関係が生まれています。リーダーが教える。スタッフが従う。
このモードのままでは、スタッフは「正解を待つ人」になり続けます。自分の頭で考える力が、いつまで経っても育たないのです。
育成がうまいリーダーは、実はあまり「教えて」いません。
代わりに、スタッフ自身が考えざるを得ない場面をつくっています。「どうすればよかったと思う?」という一言が、長い説明より何倍も人を育てることがある。
現場でスタッフを育てようとするより先に、問いを立てる習慣をリーダー自身が持つことが重要です。
人は育てられるのではなく、環境の中で勝手に育つ
少し視点を変えてみましょう。
あなたが今の仕事でいちばん成長したのは、誰かに丁寧に教えてもらったときですか?それとも、追い込まれたり、責任を任されたり、失敗して恥ずかしい思いをしたときではなかったですか。
ほとんどの人が、後者を挙げます。
人は「経験の密度」の中で育ちます。そして経験は、環境が生み出すものです。
つまり、育成の本質は「何を教えるか」ではなく「どんな環境をつくるか」にある。
介護現場で言えば、こんな環境です。
- ・安心して失敗できる空気がある
- ・「なぜそうしたの?」と考えさせる問いかけがある
- ・役割と期待が明確に伝えられている
- ・ちょっとだけ背伸びが必要な負荷がある
この4つが揃ったとき、スタッフは自然に動き始めます。リーダーが引っ張るのではなく、スタッフ自身が走り出す。
「安心して失敗できる空気」が特に大切です。
ミスを責める雰囲気がある職場では、スタッフは挑戦を避けます。報告も遅くなる。結果的に、小さなミスが大きな事故につながる。
逆に「失敗から学ぼう」という文化がある職場では、スタッフが自分から問題を持ち寄るようになります。リーダーの仕事は、この空気を育てることです。
「役割と期待の明確さ」が人を本気にさせる
もう一つ、見落とされがちな要素があります。それが「役割と期待の明確さ」です。
「よろしく頼むね」だけでは、人は動けません。何を期待されているか、どこまでやっていいか、どんな判断を求められているか。これが曖昧なまま任せると、スタッフは結局「確認待ち」になります。それを見てリーダーが「自分で考えてほしい」とため息をつく。この悪循環、心当たりはありませんか。
明確にするとは、細かく指示することではありません。
「この利用者さんの次回の外出支援の段取りはあなたに任せるよ。あなたなりの計画を立ててみて」という一言が、スタッフの主体性を引き出すことがあります。
「ちょっと背伸びの負荷」も同じです。
簡単すぎる仕事は退屈を生み、難しすぎる仕事は挫折を生む。その中間、少しだけ頑張れば届く仕事を渡したとき、人は最も成長します。
介護施設の現場では、経験年数や適性を見ながらこの「ちょっと背伸び」を設計することがリーダーの腕の見せ所です。「この人ならこれを任せてみよう」という直感と観察眼こそが、育成の核心にあります。
明日から「育てる」をやめて「場をつくる」に切り替えてみる
「育てる」から「育つ環境をつくる」へ。
言葉は似ていますが、リーダーの立ち位置がまったく変わります。
育てようとするリーダーは、前に立ちます。
引っ張って、教えて、修正する。
育つ場をつくるリーダーは、横や後ろに立ちます。
見守って、問いかけて、失敗を受け止める。
明日からできることは、小さくていい。
まず、一つだけ試してみてください。
スタッフがミスをしたとき「なんでそうしたの?」と責める前に「どうすればよかったと思う?」と聞いてみる。
たった一言の違いですが、スタッフの表情が変わります。防御ではなく、思考が始まるからです。
「育成がうまいリーダー」と言われる人たちは、特別な技術を持っているわけではありません。
スタッフのことをよく観察して、この人が「育つ瞬間」はどこにあるかを見つけるのが上手いのです。
介護の現場は、人が人を支える場所です。
それはスタッフ同士も同じ。
リーダーがスタッフを支え、スタッフが利用者を支える。
その連鎖が、本当に「いい職場」をつくる。あなたのチームが、少しずつ育つ場所になっていくことを願っています。
