「人生を変えた本はありますか?」
そう聞かれたら、私は迷わず『嫌われる勇気』と答える。
もちろん世の中には素晴らしい本がたくさんある。でも、「物事の見方そのものが変わった本」と言われれば、この一冊を超えるものは今のところない。
アドラー心理学をベースにしたこの本には、課題の分離、共同体感覚、承認欲求など、さまざまな考え方が登場する。どれも印象的だったが、私に最も大きな衝撃を与えたのは、「原因論」ではなく「目的論」という考え方だった。
「変われない」のではなく「変わらないことを選んでいる」
当時の私は、職場で多くの悩みを抱えていた。
不満ばかり口にする人、現状を変えたいと言いながら動かない人、問題があることは分かっているのに一向に前進しない組織。正直に言うと、私にはそれが理解できなかった。「そんなに嫌なら変えればいいじゃないか」「もっと合理的に考えればいいのに」と、そう思っていたのだ。
ところが『嫌われる勇気』は、まったく違う角度から人間を説明した。人は過去の出来事によって行動を決めているのではなく、今の目的のために行動を選んでいる、というのだ。
つまり「変われない」のではなく、「変わらないことを選んでいる」。最初はかなり衝撃だったが、読み進めるうちに、妙に腑に落ちていった。
現状維持は、実はとても合理的な選択
例えば、転職したいと言いながら動けない人。副業を始めたいと言いながら始めない人。現状に不満を持ちながら行動しない人。その人たちは、本当に変わりたいのだろうか。
もしかすると、失敗するリスク、笑われるリスク、傷つくリスク——そういったものを避けるために、あえて現状維持を選んでいるのかもしれない。
今の状況には不満がある。でも未知の世界は怖い。だったら今のままの方が安全だ。そう考えると、一見不可解だったその行動も、実は非常に合理的なのだと分かる。
この考え方を知ったとき、私は初めて人を理解できた気がした。
ハンドルを、自分の手に取り戻す
そして同時に、自分自身のことも見えてきた。私もまた、挑戦しない理由を探していた一人だったのだ。
副業を始めるときも、新しい仕事に挑戦するときも、SNSで発信を始めるときも、怖くなかったわけではない。失敗したくなかったし、笑われたくなかったし、批判されたくなかった。でもそれらは「できない理由」ではなく、「やらない理由」だったのかもしれない。
そう気づいたとき、自分の人生のハンドルを、他人や環境ではなく、自分の手に取り戻せたような感覚があった。
厳しさの奥にある、強烈な希望
『嫌われる勇気』は、決して優しい本ではない。時に厳しく、耳が痛く、思わず反発したくなる。
でも、その厳しさの奥には強烈な希望がある。それは「人はいつからでも幸せになれる」というメッセージだ。
過去がどうだったかは関係ない。環境がどうだったかも関係ない。今から選び直せるし、今から行動できる。必要なのは才能でも能力でもなく、ただ勇気なのだと、この本は教えてくれる。
私はこの本を読んでから、多くの挑戦をしてきた。すべてが上手くいったわけではないし、失敗もたくさんした。
それでも、一つだけ確かなことがある。挑戦しなかった後悔より、挑戦した失敗の方が、ずっと気持ちがいい。
もし今、何かを変えたいと思っているのに、怖くて動けない人がいるなら。ぜひ一度、『嫌われる勇気』を読んでみてほしい。もしかすると、その悩みを解決する答えは外側ではなく、自分の中にあることに気づくかもしれない。
そして私自身も、これから先また立ち止まったときには、きっとこの本を開くのだと思う。
勇気とは、生まれ持った才能ではない。
選び続ける姿勢そのものなのだから。
